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菌糸体から子実体を成し 自我(エゴ)という胞子を基質中に撒き散らす考察
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白い糸

白い糸が伸びていた。
それは気だるい夏の日の午後。

喧騒木魂すビル街の一画。
街路樹の傍に置かれたベンチに腰掛け
逆上せた頭で虚ろに見つめる。

それはまるで生物の様に 細い身をくねらせ
蒸し上がったアスファルトの上を艶かしく踊る。

―興味が湧いた―

この白糸は何なのか? 生きているのか?
そもそも、何処から延びているのだろう?

糸の出所を眼で追うと それはとある廃ビルの横
ビルとビルの谷間の 細い路地へと続いていた。

―気味が悪い―

先程までの好奇心は打ち消され 恐怖心が湧き上がる。
得体の知れない何かが わたしの興味を惹こうとしている?

『馬鹿め、こんなものに引っ掛かるか。』


次の瞬間 わたしの後ろから
けたたましいサイレンの音が響いた。

ハッとした私が 後ろを振り返ると
そこには 担架に乗せられ 
救急車へと担ぎ込まれる わたしがいた。

―そんな馬鹿な―

先程見ていた方向に首を戻す。

視界に飛び込んだのは あの細い路地
廃ビルへと通じる小さなドア。
白い糸はその隙間から延びていた。

何時の間にかわたしは ビルの谷間に居たのだ。

血の気が一気に引く。

大慌てで 元居た場所に戻ろうと
足を踏み出そうとするも 足が無い。
手で這おうとするも 手が無い。
助けを呼ぼうとするも 口が無い。

気が付くと わたしの身体は
白い糸になっていた。


―ずるずる ずるずる―


徐々に遠ざかる 街路樹とベンチ。
塵と枯葉と黴の匂い香る 薄暗い路地の中
わたしは引き摺られてゆく。

喧騒さえも 光さえもぼやけ

やがて
それすらも失った時、

わたしは


廃ビルの中でとぐろを巻く
一匹の白蛇になっていた。
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