ある日、パパとふたりで

ある日、パパとふたりで

まだ薄暗い　月明かり差し込む窓辺
まどろみながら　聴いた虫の音。

心地良いそよ風　ママの横顔。


僕のパパは　帰って来ない。
もう長いこと　戻らない。

パパが旅立ったあの日も　こんな月光さざめく夜明け前。

あれからどれだけ経ったのだろう。
僕はすっかり大きくなった。
パパにも負けないくらい　大きくなった。

もうじき僕も　此処を発つ。
パパを探しに　此処を発つ。

その為に　一生懸命大きくなった。
憧れの地へ行く為に　理想郷へ行く為に。

僕らの憧れ理想郷。
パパと話した緑の地。

やがて聴こえる　がなり声。
虫の声はすっかり止み　ツンとした臭い　流れ込む。

使者が来た
理想郷への使者が来た。

使者の足音　ぴたりと止まり
僕を眺めて　笑みを浮かべる。

ママは潤んだ瞳で　僕を見つめる。

世話係のおじさんは　僕の名を呼び　手招きした。

輝いた瞳　誇らしげな面持ちで　みんなを眺める。
まだ幼い弟たちは　羨ましげな眼差しで　僕を見上げる。

さよならママ。
さよなら　みんな。

僕は今から旅立ちます。
パパの居る地へ　旅立ちます。
理想郷へと　旅立ちます。

大きな僕より　さらに大きな　鉄の馬へと乗り込んで

僕は今　楽園目指し　旅立った。
緑の地へと　旅立った。